佐藤博士のメディカルトーク
157. 老いはフレイルから始まる
私は95歳になり、最近は体や腕のシワが目立ち、これまで張りのあった皮膚がたるむのを感じるようになりました。このように目に見える変化とともに、体力や筋力が落ちていく状態がフレイルの始まりです。
フレイルとは、「加齢により心身が老い衰えた状態」のことです。しかしフレイルは、早い段階で適切な対策を行えば、元の健康な状態に戻る可能性があるといわれています。つまり、フレイルは可逆性を持っています。高齢者のフレイルは生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症を引き起こす危険があります。「フレイル」は2014年に日本老年医学会が提唱した言葉で、英語の「Frailty(フレイルティ:虚弱)」が語源となっています。
フレイルが起こる原因
フレイルを引き起こす2大要因は「老化」と「疾病」です。老化は筋力や認知機能の低下、生活習慣病などを招きます。生活習慣病とは、日々の生活習慣が発症や進行に関与している疾患のことです。例えば、高血圧、糖尿病、脳卒中、慢性腎臓病などがあり、これらの治療がうまくいかないことでフレイルへとつながることがあります。
なお、2大要因は老化と疾病ですが、その背景にある原因は人によって様々です。飲酒や喫煙、孤立など、生活環境や習慣にまつわる多くの問題が関係していると考えられます。
フレイルの症状
フレイルは単に筋力が落ちるだけでなく、以下の3つの要素が複雑に絡み合って進行します。
- 身体的フレイル
筋力の低下、疲れやすさ、歩く速さの低下(後述のサルコペニアなど)が見られます。 - 精神、心理的フレイル
気力の低下、うつ状態、軽度の認知機能障害などが現れます。 - 社会的フレイル
社会への参加は、心の健康に深く結びついています。身体の健康に気を配っていても、社会参加ができなくなるとフレイルが進行してしまうことがあります。改善するためには、地域の行事やボランティア活動への参加、子どもや孫と会う機会を増やすなど、積極的な交流が大切です。直接会えない場合でも、手紙や電話で連絡を取り合うことで交流を保つことができます。

フレイルとサルコペニア、廃用症候群との違い
フレイルと関連の深い状態として「サルコペニア」と「廃用症候群」があります。
- 廃用症候群
最近では「生活不活発病」とも呼ばれています。病気やケガなどによって身体を動かさない状態が続くことで、身体機能が大幅に低下してしまう状態です。精神面にも影響し、うつ状態を引き起こすこともあります。廃用症候群はフレイルを引き起こす大きな危険因子の一つです。 - サルコペニア
加齢や病気によって筋肉量が減少し、身体機能が低下していく状態です。サルコペニアを発症すると転倒や骨折のリスクが高くなり、認知症やうつ症状の進行にもつながります。サルコペニアもフレイルも機能低下という点では共通していますが、サルコペニアは筋肉量の減少による身体機能の低下のみを指します。一方、フレイルは身体機能の低下に加え、認知機能や社会活動の低下といった幅広い要素を含んでいます。サルコペニアは、フレイルの主要な身体的症状の一つと位置づけられます。
50代から生活を見直すことの大切さ
50代は現役の働き盛りであり「自分にはまだ関係ない」と思われがちですが、加齢に伴う心身の衰えは少しずつ始まっています。50代をフレイルの前段階と捉え、早めに生活を見直すことが重要です。
セルフチェックの目安
以下の項目に当てはまるものがある場合は、フレイルの兆候があると考えられます。
- 半年間で体重が2キロから3キロほど減った
- 以前より疲れやすくなった
- 外出が減り、人と話す機会が少なくなった
- ペットボトルのふたが開けにくくなった
- 横断歩道を青信号の間に渡り切るのが難しくなった
注意すべき心身の変化
- 身体機能と口腔機能の低下
筋肉量が減ることで歩行が難しくなり、転倒の危険性が高まります。また、「オーラルフレイル」と呼ばれる口腔機能の低下にも注意が必要です。食べ物が噛みにくくなったり、食べこぼしが増えたりし、悪化すると嚥下障害や摂食障害へと進行します。 - 認知機能と心理面の衰え
物忘れや、ものの名前が出てこない、計画を立てて物事を進められないといった状態から始まり、進行すると認知症と診断されます。また、気分の落ち込みやうつ状態になることもあります。初期段階では「ぼんやりする」「落ち着きがなくなる」といった変化が見られ、周囲から認知症と見分けがつきにくい傾向もあります。 - 社会性の衰え
人や社会とのつながりが薄れることもフレイルを進行させる大きな要因です。会話や交流が減ってしまうと、身体が健康であってもフレイルのリスクが高まります。
フレイルの予防と改善
フレイルの進行を防ぎ、健康な状態を保つためには以下の3つの取り組みが重要です。
- 栄養(食事、口腔ケア)
筋肉量を維持するために、肉、魚、大豆製品などのタンパク質を意識して摂取します。また、しっかり噛んで飲み込むための口腔ケア(口腔機能の維持)も欠かせません。 - 運動
無理のないウォーキング、筋力トレーニング、ストレッチなど、身体を動かす習慣を継続します。 - 社会参加
趣味のサークル、地域の集まり、ボランティアなどを通じて、人との交流や生きがいを持ちます。
おわりに

フレイルは早期発見によって予防や改善が可能です。しかし、本人が自分自身の衰えに気づき、自力で生活を改善していくことは簡単ではありません。健康だった頃と同じ感覚で過ごしているうちに、要介護状態になってしまうケースも多く見られます。
フレイル予防には、家族や地域、介護予防サービスに携わる方々のサポートが不可欠です。周囲の人々が早い段階で気づき、適切に関わることで、高齢者が再び元気に暮らせるよう支えていくことが大切です。
2026年9月1日


