佐藤哲男博士のメディカルトーク No.149
149. 睡眠と健康
健やかな眠りと現代人の眠り
人生の3分の1の時間は睡眠に使われていると言われています。しかし、現代生活は長時間通勤、受験勉強。インターネット、ゲームなどで夜型生活の人が多いので、睡眠不足の人が増えており、それによる事故や、慢性不眠によりうつ病を発症したり生活習慣病の悪化など医学的には脳内の体内時計(後述)を狂わせる要因が多く溢れています。

増加する睡眠障害
睡眠不足だけが睡眠問題ではありません。睡眠の病気(睡眠障害)が増加しています。医学的には睡眠障害の種類は100種類近くもあり、不眠症や睡眠時無呼吸症候群をはじめとする日本人でもよくみられる数多くの睡眠障害があります。不眠や日中の眠気が1ヶ月以上続くとき、何らかの睡眠障害にかかっている可能性があると言われています。
睡眠不足は万病のもと
睡眠不足や睡眠障害により体は精神的、肉体的に大きな負担を受けています。例えば睡眠不足や不眠が続くと、日中に眠くなりそれにより仕事の能率が低下し、場合によっては大きな事故に繋がります。例えば、過酷な勤務条件による長距離ドライバーの居眠り運転や、睡眠時無呼吸症候群を患っている新幹線運転士の居眠りによる緊急停止事故などが問題になっています。睡眠は休養に必要なだけではなく、記憶・気分調節・免疫機能の増強など、さまざまな精神機能や身体機能に関連しています。十分な睡眠を保つことは活力ある日常生活を送るための基本であります。
睡眠障害は多くの精神疾患でもっともよく認められる症状の一つです。例えばうつ病では他の症状に先駆けて不眠が出現することが多く、うつ病の発症や再発を予見する症状として注目されています。また長期に持続する不眠によってうつ病へ罹患しやすくなることも知られております。
不眠・睡眠不足と生活習慣病との悪循環
睡眠障害は生活習慣病をはじめとするさまざまな身体疾患も増悪させます。例えば高血圧、脂質異常症(例:高コレステロール症)・糖尿病・高尿酸血症(痛風)・逆流性食道炎(胸やけ)などを悪化させます。睡眠薬などを使って不眠に対処することにより生活習慣病が改善することも明らかになりました。
睡眠障害とはどのような状態か
睡眠障害とは、簡単に説明すると“睡眠に対して何かトラブルを抱えている状態”のことを示します。それは大きく分けると、不眠症、過眠症、睡眠時随伴症(睡眠中に起こるねぼけ行動)の3つに分けることができます。特にその中でも、不眠症で悩む方が多いです。
不眠症の原因は次の4つの要因に分けて考えることができます。
- 生理的な要因
生活習慣や環境が原因で、不眠に至るケースです。夜勤される方は体内時計に逆行しているので、いくら眠気があってもなかなか熟睡できない人も多いのです。また、寝室の室温や湿度が不適切だったり、夜間でも騒音が聞こえるなど環境の要因も含まれます。 - 心理的な要因
不安やイライラすることで、布団に入っても頭が冴えて眠れない状態です。このケースは多くの人々について不眠の原因となっています。 - 眠れなくなる成分
日常の嗜好品の中でコーヒーに含まれるカフェインやたばこのニコチンは覚醒作用があります。特にコーヒーに含まれるカフェインの血中半減期は約6時間あるので、夕方遅くは飲まないほうが無難です。血中半減期とは、最高血中濃度が半分になるまでに要する時間です。 - 身体的な要因
体の痛みやかゆみなどがある時は熟睡できません。また高齢になり体力が低下して、以前のように長い時間の睡眠がとれなかったり、夜間頻尿のために頻繁にトイレに行く人は熟睡できません。

睡眠障害のセルフチェック
“自分も睡眠障害かも”と思う時があると思います。不安な人は世界共通で使われている『アテネ不眠尺度』をお勧めします。これは世界保健機関(WHO)が中心になって設立されたプロジェクトで、不眠症の度合いを判定するために、世界共通で使われている不眠症の尺度です。
これは8つの質問からなる最大24点満点のセルフチェックです。3点以下なら睡眠障害の心配はなく、4~5点では少し不眠症の疑いがあり、6点~9点の人は不眠症の疑いがあると判断され、10点以上は医師に相談するレベルとなっています。 過去1ヶ月間に、少なくとも週3回以上経験したものに当てはまるものにチェックして下さい。
- 寝床についてから実際に寝るまで、時間がかかりましたか?
0点 いつもより寝つきは良い
1点 いつもより少し時間がかかった
2点 いつもよりかなり時間がかかった
3点 いつもより非常に時間がかかった、あるいは全く眠れなかった - 夜間、睡眠の途中で目が覚めましたか?
0点 問題になるほどのことはなかった
1点 少し困ることがある
2点 かなり困っている
3点 深刻な状態、あるいは全く眠れなかった - 希望する起床時間より早く目覚めて、それ以降、眠れないことはありましたか?
0点 そのようなことはなかった
1点 少し早かった
2点 かなり早かった
3点 非常に早かった、あるいは全く眠れなかった - 夜の眠りや昼寝も合わせて、睡眠時間は足りていましたか?
0点 十分である
1点 少し足りない
2点 かなり足りない
3点 全く足りない、あるいは全く眠れなかった - 全体的な睡眠の質について、どう感じていますか?
0点 満足している
1点 少し不満である
2点 かなり不満である
3点 非常に不満である、あるいは全く眠れなかった - 日中の気分はいかがでしたか?
0点 いつもどおり
1点 少し滅入った
2点 かなり滅入った
3点 非常に滅入った - 日中の身体的および精神的な活動の状態は、いかがでしたか?
0点 いつもどおり
1点 少し低下した
2点 かなり低下した
3点 非常に低下した - 日中の眠気はありましたか?
0点 全くなかった
1点 少しあった
2点 かなりあった
3点 激しかった
よい睡眠をとるための対策法や改善方法
専門医によると、不眠症の改善には、まず寝室の明るさを落として、必要ならばアイマスクをしたり、騒音がひどいなら耳栓を使います。また日中の生活リズムは睡眠にとって重要なので、3食の時間は出来るだけ同じ時間に摂るとよいです。それにより体内時計が整い、睡眠と覚醒のリズムが正常になります。また、夕食は睡眠の妨げにならないように3時間前には食べ終わることをお勧めします。体内時計とは、生体リズムを調整しているメカニズムの1つです。昆虫も植物も、人間を含む哺乳類も、地球に住むすべての生物に備わっています。朝になると目が覚め、日中は活動し、夜になると眠くなる基本的パターンは、体内時計の働きによるものです。ホルモンの分泌や自律神経の働きなど、全身の機能も調整しています。体内時計のある場所は、左右の目の奥の目と脳を結ぶ視神経で、左右の視神経が交差するあたりは〝視交叉上核(しこうさじょうかく)〟と呼ばれ、ここに体内時計の中枢基地があります。地球の自転周期(24時間)とズレがあるため、朝の光を浴びてリセットする「リセット」が必要ですが、スマホのブルーライトや不規則な生活で乱れると、不眠、肥満、生活習慣病、精神的不調につながります。健康維持のためには朝の光を浴び、食事と睡眠のリズムを整えることが重要です。
おわりに
睡眠障害には、その背景に身体的な疾患や精神的な疾患が隠れていることも珍しくありません。そのため、早めに気がつき早めに対策することが必要です。『ちょっと寝られなくてもなんとかなるか』と安易に考えて過ごし続けることは避けましょう。場合によっては早めの受診も検討し治療していくことが必要です。 なお、睡眠薬についてはMT56で述べましたのでご参照下さい。
2026年1月1日


