佐藤哲男博士のメディカルトーク No.148
148. 慢性腎臓病の患者が増えている
2016年に29話「腎臓病は怖い」で腎臓病に関して述べました。最近、慢性腎炎患者が急増しているので今回再び腎臓病をとりあげました。
老化とともに腎臓の働きは弱る
腎臓の働きは加齢に伴って徐々に弱くなります。専門医の話では、80歳代になると30歳代に比べて腎臓の働きは3分の1かそれ以下になるそうです。腎臓の働きが異常になると、顔、手足にむくみを生じます。いま、日本では高齢化に伴って慢性腎臓病(CKD)の患者が急増しています。その数は推定1330万人、実に20歳以上の8人に1人に及んでいます。腎臓病は早期に発見、治療すると寛解しますので、中高年になったら年一回医療機関で受診することをお勧めします。
私は5年前に「腎ネフローゼ」という病気になりました。見つけたきっかけは、その年の春頃から徐々に体重が増えたので、単なる肥満と考えていましたが、食事を加減しても一向に減少せず、徐々に増えるので、腎臓内科で診断を受けました。先生は「すぐに入院して下さい」とのことでした。このときには明らかな足のむくみ(浮腫)がありました。ネフローゼ症候群とは、尿にタンパクが沢山出てしまうために、血液中のタンパクが減り(低たんぱく血症)、その結果、むくみが起こる疾患です。 私の場合、40日間入院しステロイド療法を続けて完全寛解しました。
腎臓の働きと尿ができる仕組み(詳細は29話参照)

腎臓病はある限界を超えると薬物治療により回復することが困難です。それは腎臓の働きの仕組みの複雑さに起因します。体の中で絶え間なく生成される老廃物を体外に排除する役割を持っているのが腎臓です。腎臓はそら豆の形をした臓器で背中側の腰の上に左右一つずつ2個存在し、一個の重さは約100グラムです。
全身くまなく張り巡らされた血管の一部として、全身を循環している血液は輸入細動脈を通って腎臓の「糸球体」という部分に入ります。糸球体は毛細血管が糸玉のように球状に集まっているのでこの名前がついています。糸球体では血液が濾過されて老廃物は濾液に含まれます。この濾液は尿のもとになる「原尿」です。濾過で残った血液は輸出細動脈により再び全身の循環に戻ります。糸球体の濾液である原尿は、健康人の場合、一日約180リットル(ドラム缶一本)で、これは最終的に体から排泄される一日の尿の100倍に相当します。これだけの水分が体から失われたら一日で人間はミイラになってしまいます。しかしその心配は要りません。
原尿は血液から作成されるので、その成分は血液と殆ど同じで、その中には体に必要なアミノ酸やブドウ糖が含まれています。これらは原尿の水分と一緒に尿細管から血管へ再吸収されて99パーセントが全身に戻り再利用されます。再吸収されなかった原尿の1パーセントの水分が老廃物を含む尿として膀胱に蓄えられ、排泄されます。健康な人は一日1,000-1,500ミリリットル(1.0-1.5リットル)の尿を排泄します。
通常、膀胱の中に一日排尿量の約十分の一(100-150ミリリットル)が溜まると、膀胱の出口の筋肉が神経により緩んでトイレに行きたくなります。膀胱はゴム風船と同じで、我慢すると500ミリリットル位までは溜めることが出来ます。しかし、余り我慢すると膀胱炎の原因にもなりますので無理することはありません。
血液、尿検査で腎臓病を早期発見
尿は腎臓の異常をいち早く知らせてくれる多くのサインを含んでいます。病院で血液、尿検査を受けたときに、腎臓の機能を知る指標として「クレアチニン値」と「糸球体ろ過量(eGFR値)」があります。クレアチニンは血中に存在する成分で、腎臓の働きが悪くなるとその数値が上昇します(基準値1.10以下)。また、eGFRはすでに述べた糸球体における血液から原尿をつくるろ過量を示し, 数値が小さい程病状が進んでいます(正常値は90)。eGFRは「推算糸球体ろ過量」という意味で、腎臓が老廃物をどの程度ろ過しているかを推定する指標です。

加齢により腎機能が低下するのはなぜか
加齢に伴い血管が硬くなると腎臓への血流量が減り、その結果、糸球体に十分な血液が行き渡りにくくなります。また、ネフロン(糸球体、尿細管などを含む腎臓のろ過機能に関係する部分の総称)の数も少しずつ減少し、塩分や水分の調整能力が下がってしまいます。このような変化が重なってeGFRが低下するのが加齢による腎機能低下の原因です。高齢者でeGFRが下がると血圧コントロールの乱れやむくみ、電解質異常などの合併症が起こりやすくなります。
eGFRの計算には年齢が含まれますので、高齢者の場合はeGFRが60でも正常範囲です。慢性腎臓病は高血圧、糖尿病などの生活習慣病が原因になることが少なくありません。腎臓は一度悪くなると自力での回復が困難なので、早期発見のためには、毎日の尿の変化に気をつけることです。中でも尿の中に血液が混じったり(血尿)タンパクが含まれているとなんらかの腎臓の異常が予想されますので早期に医療機関で診断することをお勧めします。血尿やタンパク尿の検出には、ドラッグストアで血尿、蛋白尿などを検査する試験紙が売られていますので自分でチェックすることが出来ます。手遅れになったら腎移植や一生の間血液透析が必要になります。
おわりに
肝臓の病気はある程度進行しても治療することにより回復することが出来ます。それは肝臓の細胞の新生が活発だからです。それに対して、腎臓は糸球体、尿細管など異なった細胞の集まりですので、一度失われた機能が元に戻りにくい非常に繊細な臓器です。慢性腎臓病の最大の問題は、腎臓の機能が半分以下に低下するまで、ほとんど自覚症状がないことです。腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれています。そのため、気づかないうちに病気が進行し、最終的には透析治療が必要となる「末期腎不全」に至る危険性があります。私は5年前に「腎ネフローゼ」になった寛解した後、3ヶ月ごとに腎臓内科で血液、尿検査を受けており、幸いに今の所異常値は見られておりません。繰り返しになりますが、早期発見、早期治療が必須です。
謝辞:本年も「メディカルトーク」をご笑覧下さいまして有難うございました。明年は95歳になりますが、心身ともに健在でいる限り継続したいと考えています。よろしくお願い申し上げます。
2025年12月1日
付録
「笑いのコラム」
■ 教授はレントゲン写真を見せながら、学生たちに説明した。
「この患者は、左の腓骨と脛骨が著しく湾曲している。そのため足をひきずっているのだ。スティーブ、こういう場合、君ならどうするか言ってみなさい」
スティーブは一生懸命考えて答えを出した。
「えっと、僕もやっぱり足をひきずると思います」
■ もうすぐ手術をうけることになっている男が必死になって車椅子でホールにやってきた。
看護師長が彼を止め、尋ねた。「どうしたんですか?」
「今、看護師さんが言ったんです。『簡単な手術だから心配ないですよ。きっとうまくいきます』って」
「あなたを安心させようとしたんでしょ。何をそんなに怖がってるの」
「看護師さんは私に言ったんじゃないんです。主治医にそう言ったんです」
以上「アメリカン・ジョーク集」より引用


