佐藤哲男博士のメディカルトーク No.145
145. 別れ、泣く、笑う
1.「さようなら」は別れの言葉
日本語の中で最も美しい言葉は「さようなら」と「ありがとう」といわれています。「さようなら」は別れの言葉です。私事で恐縮ですが、60代後半から10年間国際会議に出席のため頻繁に海外へ出張しました。帰国便が成田空港に近づいて着陸態勢に入った頃、客室乗務員はお別れのアナウンスの最後に、「それでは御機嫌ようさようなら」と結んだ。私はこの「さようなら」を聞くと無性に寂しく、悲しくなりました。「さようなら」の響きが悲しみを誘ったのと、成田に到着する時間は夕暮れか夜が多かったので一層感傷的になったのかもしれません。
出会いと別れ

人生には、楽しい出会いもありますが、悲しい別れもつきものです。学校では入学は出会いの時であり卒業は別れの時です。また、長い間住み慣れた土地を離れて他の土地へ引っ越す時など、近所の人々との別れは辛いものがあります。最大の別れは人生の終焉に際して、万感を込めて交わし合う今生の別れ、そんな場面では「さようなら」という言葉で別れを語りかけます。
誰でも経験するように、「さようなら」という別れの言葉にはいとおしい響きがあります。その響きはたとえ日本語を知らない外国人にとってもその感性が伝わるもので、昔、ハリウッドで「SAYONARA」という映画が作られたことがありました。
別れの語源
「さようなら」に、どんな意味を込めるかは使う場面や使う人によって変わっていきます。東京大学名誉教授 竹内整一先生は『日本人はなぜ「さようなら」と別れるのか』 (ちくま新書)(2009年)中で次の一例を挙げています。
熟年離婚の「さようなら」
結婚40年、小さなイライラが毎日積もってきており、子供が自立したので、熟年離婚に至ります。この夫婦の「さようなら」の場合は「いやいや何とかやってきたけれども、あなたは全く変わろうとしなかった。そうであるならば、明日からはそれぞれに人生を楽しんでいきましょう。」こんな意味の「さようなら」です。
「別れ」はいったん立ち止まって、今までのことを確認し、次のことへ進むための節目とする考えがあります。 そこで、「さようなら」という接続詞そのものが、いろいろな意味を含む別れの言葉になったのです。つまり、「さようなら」は「今まではこうだったのだから、そうであるならば、この先はこうしよう。」という意味を込めて使うことが多いです。
2. 泣くこと
7月9日は「泣く日」で「泣くことで喜怒哀楽の感情表現の豊かさについて考える日」らしいです。泣くことは老若男女にかかわらず医学的・心理的に多くのメリットがあります。それは心のデトックス(解毒)効果があるからです。涙を流すことで、体内のストレスホルモン (コルチゾール)が体外に排出され気持ちがスッキリします。 泣くことで副交感神経が優位になり 心身がリラックスした状態になります。これは睡眠と同じくらいのリラックス作用があるとも言われています。 身体の自律神経は交感神経と副交感神経から成り立っており、交感神経は興奮状態になりますが、副交感神経は逆に抑制的になります。 「泣く」ということは、悲しい、寂しい、苦しい、つらい、悔しい、怒り、嬉しい、などの感情が頂点に達したことを表現しています。泣くこと自体はストレス解消や気持ちの整理、傷ついた心の修復に役立つともいわれています。 泣くのは自然な感情表現なので、本来は子供のように表に出して泣いても問題ないですが、大人になると感情のコントロールが必要になります。
泣くことは、感情を解放し抑えていた感情を涙として表現することで、 泣くことにより心のバランスが整い、気持ちが落ち着きます。このように、泣くことは心身の健康を守り 感情を整理し、前向きな気持ちを取り戻すために重要な反応です。
3. 笑うこと

笑うことは健康の源です。私は若頃から寄席が好きで度々行きました。そのきっかけは、昭和20年代の大学生の頃上京したときに東京に住んでいた従兄弟が新宿の寄席「末廣亭」に連れて行ってくれたのが最初です。その頃舞台で演じていた大師匠は今では全員が既に亡くなっており、弟子、孫弟子が今の寄席を賑わせています。昔の末廣亭は入れ替え制ではなかったので、繰り返し居残って楽しんだこともありました。 最近は寄席へ行く体力がなくなったので、テレビで長寿番組の日曜寄席「笑点」を楽しんでいます。笑うことは健康にとって非常に役立ちます。そのために「メディカルトーク」ではときどき「笑いのコラム」を掲載しています。
笑うことは人生を豊かにする
"笑い"は心や身体に良いということは医学的にも実証されており、病気の予防や治療においても注目されています。笑うことで身体の免疫力がアップし、脳の働きが活性化されます。笑いはストレスなどの緊張状態を引き起す交感神経を緩めるので緊張がほぐれるのです。 医学的には脳内に分泌されるホルモンに影響しているからです。例えば、笑うことで分泌されるエンドルフィンというホルモンは、幸せホルモンと言われており幸福感を与えてくれます。
また、笑うことにより深い呼吸である腹式呼吸をするので、いつもの呼吸よりも多くの酸素が体内へ取り込まれて血液の循環がよくなります。これにより、脳や全身に酸素や栄養分がスムーズに運ばれ、新陳代謝がよくなり、これが免疫力を上げる源になります。 このように笑いが身体に良いという話は日本だけではありません。海外でも「3回薬を飲むより1回笑う方が体に良い」、「よく笑ってよく寝れば医者は要らない」など笑いが健康によいことを表すことわざが存在します。辛い時には他人のいない場所で一人になって声を上げて笑うことで一瞬ストレスが解けます。ただし、多くの人の中で突然大声で笑うと連れて行かれますのでご注意のほど。
おわりに
誰でも例外なく毎日の暮らしの中で悲しみ、楽しみを経験しています。人によって悲しみと楽しみの大きさが異なります。「幸せを願う」とか「幸せになりたい!」などということをよく聞きますが、幸せとは「頭で考える」ものではなく自分で動いて引き寄せるものです。じっと待っていても幸せはなかなかやってきません。 2025年9月1日
付録
「笑いのコラム」
■ 興奮した患者が手で髪をかき乱しながら、精神科医の診察室を歩きまわった。
患者:「先生、記憶がなくなったんです。何もないんです! 妻の名を思い出せません。子供の名が分かりません。自分がどんな車を運転しているのか思い出せません。自分がどこで働いているのかも。 ここへ来るのもやっとだったんです。」
医者:「落ちついて。 いつからこうなりました?」
患者:「こうって?」
■ 病気の重い患者に医者が言った。「だれか、呼んでほしい人はいないかね」。
医者の耳もとに口を寄せて、患者は苦しい息の中から答えた。「他の医者を」。
■ ある男が、とても賢い馬を飼っていた。「アーメン」と言うと馬は止まり、「ハレルヤ」と叫ぶと全速力で走る。その男が馬に乗り、大声で「ハレルヤ」と叫んだ。馬は草原を全速力で走り、野山を駆け抜けた。 突然、断崖絶壁が見えた。彼は大声で「アーメン!!」と叫んだ。馬はその絶壁の直前で止まり、男は九死に一生を得た。胸をなでおろした男は、心から「ハレルヤ」と叫んでしまった。
■ 野戦病院の惨状を視察に来た大司教。
ある重症の兵士を見ると、彼はやにわに苦しみだし傍らにあったメモに何かを書きつけて逝った。これも神のお引き合わせかと丁寧な 祈りの後、メモを読むと
「あなたは私の酸素パイプを踏んでいる」
以上「アメリカン・ジョーク集」、「ジョーク集―Hiros’ WEB」より引用


