佐藤哲男博士のメディカルトーク141
141. 季節の変わり目に注意
「季節の変わり目」とは、春先や秋口などの寒暖差が大きい時期のことです。そのような時期は、日ごとの寒暖差だけでなく、1日のなかでも明け方と日中の気温の差が大きく、体に負担がかかりやすくなります。
さらに、春は転勤・新生活の始まりなど生活のリズムが大きく変わる季節です。この季節になると体調を崩してしまう人が増えています。その原因のひとつに、自律神経のバランスの乱れがあります。専門的になりますが、体の神経には、「中枢神経」と「末梢神経」があり、前者は脳から発して身体の諸器官に分布する神経とを結び、情報の伝達を行っています。一方、末梢神経には、「運動神経」、「感覚神経」、「自律神経」があります。
自律神経のはたらきは、脳の視床下部という場所によってコントロールされています。 「視床下部は自律神経系の最高中枢」と呼ばれています。自律神経は私たちの意思とは関係なく、呼吸や体温、血圧、心拍、消化、代謝、排尿・排便など、生きていく上で欠かせない生命活動を維持するために休むことなく働き続けています。この神経系には相反する働きをする「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。
1.交感神経
主に昼間に働き、心身の活動力を高める神経です。血圧を上げる、心拍数を増やすなどの作用があります。俗に興奮した時に“アドレナリンが出た“と言います。交感神経はアドレナリンにより制御されています。
2.副交感神経
交感神経と逆の作用があります。主に夜間に働き、心身を休息、回復させる神経です。血圧を下げる、心拍数を減らすなどの作用があります。胃腸の働きは、副交感神経が交感神経よりも優位になった時に活発になり、交感神経が優位になっている時は抑制されます。 そのため、不規則な生活やストレスの多い環境で交感神経が優位になり過ぎてしまうと、胃腸の働きが悪くなって食欲がなくなります。

通常は、この2種類の相反する作用を持った自律神経が身体の機能を調整してバランスを保っています。しかし、自律神経の働きは加齢とともに不安定になりがちです。そして、寒暖差が激しい季節の変わり目は、さらに自律神経が乱れやすくなります。自律神経の調整がうまくいかないと、食欲がなくなる、熱が出る、体がだるくなる、眠れない、便秘になる、無気力で憂鬱になるなどの多種多様の症状が出ます。この状態を“自律神経失調症”と言います。この傾向は特に高齢者に顕著です。 また、体温の微調整も自律神経により行われます。そのため、自律神経のバランスが乱れると体温調節がうまくできなくなり、熱中症や低体温症の原因になります。
「いつもと違う」と感じた時の対応
高齢者の病気は、なんとなく疲れが出る、精神的に落ち込むなど症状がはっきりと出ないことがあります。また、自覚症状も乏しいために病気を見逃してしまうことが少なくありません。こんな時には重大な病気が隠れている可能性もあります。ご本人が言葉で訴えなくても、周囲の方が早めに不調に気づいて対応することが必要です。
食欲がない時
食欲がないときの原因は、加齢によるものからストレスなど精神的に落ち込んだ病気までさまざまです。急に食べなくなった場合は無理に食べさせようとせず、まずは原因を考えることが必要です。何日も続いたら深刻な病気が潜んでいるかもしれないので消化器内科の診察を受けることが必要です。それには胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の消化器疾患のほか、感染症、心不全などが考えられます。

また、食欲不振が長引いている場合は、うつ病・認知症等の精神面での不調や、服用している薬の副作用などが考えられます。なお、食べているのに急に体重が減る場合は、糖尿病など他の病気が考えられるので早期に診断を受けることが必要です。
医療機関を受診して病気が見つからない場合は、環境の変化やストレス、不規則な生活習慣などによって自律神経のバランスが崩れているのかもしれません。
季節性うつ
季節の変わり目に現れるうつ症状を「季節性うつ」と呼びます。 季節性うつは秋から冬にかけて日照時間が減ることによって、脳内で精神を安定化するホルモンのセロトニンの量が不足することによるとされています。 また、暗い時間が長くなり、「体内時計」を調整する機能が乱れることで、身体への影響が出ることがあります。季節性うつを緩和するには、朝に日光を浴びてセロトニンの量を増加させること、また友人や知り合いとよく会話をするように努力する、などが有効です。
発熱がある
高齢になると自動的に体温を調節する機能が低下するため、病気になっても発熱しないことがあります。従って、微熱でも軽症とは限らず重症になっていることもあります。高齢者の発熱で多いのは、風邪、誤嚥性肺炎、尿路感染症などの感染症です。高齢になると頻繁にトイレへ行くことを嫌って水分を摂らない人がいます。それが長く続くと脱水症になり発熱することがあります。
急に高熱が出たときは、医療機関で早期に診断、治療することが重要です。解熱剤を飲んで熱が下がっても病気が治ったとは限りません。まずは医療機関で診察を受けることです。発熱とともに意識障害やけいれん、呼吸困難などがある場合は、躊躇せずに救急車を呼ぶことが必要です。
また、高齢者は体温調節機能の低下により、厚着や布団の掛けすぎ、暖房の効きすぎ等によって、身体に熱がこもり微熱が出ることがあります。高齢者は一般的に体温が低い傾向にありますが、平熱には個人差があります。そのため、普段から定期的に体温を測って自分の平熱を把握しておくことが大切です。一般に、体温は起床直後に低く、食後や入浴後に高く出ることが多いです。
全身がだるい
倦怠感(だるさ)も、季節の変わり目に交感神経を副交感神経のバランスが崩れたことにより起こりやすい症状です。また、高齢者は筋肉量が減少したり低栄養などによって倦怠感を感じることがあります。しかし、急にだるくなった場合や十分な休養をとっても回復しない場合は、心身の病気が隠れているかもしれませんので医師の診断が必要です。
おわりに
通常、身体は各種の神経によりバランスをとって正常に活動できるようになっています。しかし、季節の変わり目には普段見られない体の不調が見られます。よく見られる症状として、頭痛やめまい、肩こりが挙げられます。 これらの症状は「気象病」や「天気痛」とも呼ばれ、気圧の変化に敏感な方に特に多く見られます。神経を使いすぎると交感神経が興奮していろいろな症状が出ますので、何事も100%を目指すと心身共に休まることがないので、80%でよしとすると気が楽になります。少しでも体の異常を感じたら早めに医師の診察を受けることをお勧めします。
次回:「脳の臓器移植は可能か」
2025年5月1日
付録
「笑いのコラム」
大学病院の教授回診にて
教授が入院患者のお腹を触りながら主治医に話した。
教授:う~む、この人の脾臓は分かり難いね、これが触診できるようになるには10年かかる。
主治医:この患者、脾臓は手術で摘出しているのですが。。。
その後間もなく、この主治医は遠くの病院にとばされました。
結婚式
あるスコットランド人が結婚した。
式の後で「牧師さん、お礼はいかほど差し上げましょう?」牧師は軽く頭を下げ、「花嫁の美しさにふさわしいだけ…」
しめたと思った男は、たった一ドルの献金。呆れた牧師は花嫁のベールをめくり、五十セントを差し出し「おつりです」
予想外の出来事
ある夫婦のもとに信じられないほどの不細工な子供が産まれた。 周りからの目に耐えられなくなった妻は子供の殺害を計画した。妻は子供が夜になると無意識のうちに自分の乳房にしゃぶりつくことを知っていた。妻はその習性を利用して子供を毒殺しようと考えた。その夜、妻は自分の乳房に毒を塗って床についた。そして朝が空け妻が目を覚ますと、無邪気に笑う子供の横で、夫が息絶えていた。
(以上「アメリカン・ジョーク集」より)


