佐藤哲男博士のメディカルトーク139
139. 暗い裏日本、明るい表日本
私は秋田市で生まれ、育った。その頃は日本海側の県は“裏日本”と呼ばれた。天気の良い日でも空はどんより曇り、1年間を通して青空を見ることが少なかった。そんなところに住んでいる人々は、一般に内向性で無口な人が多かった。それとは対照的に、太平洋側は“表日本”と呼ばれ、天気の良い日は雲一つない青空である。人々は社交性に富み、陽気な人が多い。この様に裏日本と表日本では対照的である。
裏日本の本当の意味
本来、「裏」という言葉は、衣服の裏地を指す言葉から派生した表現で、もともとは否定的な意味合いを持つものではなかった。単に「表」と対比する意味であるが、歴史的背景も含めて時には侮蔑的なイメージを持つことが少なくなかった。また、「裏日本」という語は、地理学者の矢津昌永が1895年(明治28年)に発表した「中学日本地誌」に最初に登場した。それまでこの地域は裏日本と呼ばれず「内日本」、表日本は「外日本」と呼ばれていた。表日本という語が使われ始めた当初は、首都である東京を日本の玄関口であるという意味で「表」とした場合、日本海側が「裏」となる事から単に地理用語として用いられ、ここでも侮蔑的な意味合いはなかった。

裏日本でも秋田、酒田、富山、松江などは豊かな稲作や、昔は北前船による交易を背景に、文化や工芸が発達した都市が多く現れた。金沢は、「加賀百万石」の城下町と呼ばれ、名古屋と同程度の人口(10万人以上)を誇っていた。また新潟県は東京府(現東京都)を超えて日本一の人口を有する県であった。
「裏日本」の表現を使わなくなった理由
かつては、「裏日本」は天気予報などで地域を指す言葉として使われていたが、NHKでは新潟県から苦情が寄せられたため、1960年代末頃から差別的・侮蔑的であるとして「裏日本」という用語を使わなくなり、民放や地方紙などでも1970年代後半ごろから徐々に使わなくなった。現在はテレビ・ラジオや新聞等で使用されることは基本的にない。
「日本海側」と「太平洋側」の違い
現在は「裏日本」「表日本」という呼称は「日本海側」「太平洋側」に改められた。太平洋側に住んでいる人は、「太陽は海からのぼって山に沈む」と思いこんでいる。ところが日本海側に住んでいる人は、「太陽は山からのぼって海に沈む」と思いこんでいる。そして海のない地域の人々は、「太陽は山からのぼって山に沈む」と思っている。日本列島に住む人間にとって、海がどちら側にあるかということは大問題である。
天候の違い
日本列島には、高い山々が連なる山脈があるため、冬は日本海側では曇りや雪、 雨の日が多い。一方、太平洋側では晴れの日が多い。 このように、地方によって天候には大きな違いがある。日本海側と太平洋側の気候の違いは,季節風とともに山が多い日本の地形も関係している。
冬の季節風は,シベリアからの冷たく乾いた北西の風で、この風が日本海を渡って日本に飛来する。このとき日本海の湿気を大量に含んで雲が発生し、これが日本の中央部の山地(越後山脈など)にぶつかり,日本海側の地域に大量の雪を降らせる。そして山地を越えて太平洋側に来たときには湿気は少なくなって乾燥した風になるので,太平洋側の地域は晴れの日が多くなる。
住民の性格の違い
日本海側と太平洋側の気候の違いにより、そこに住んでいる人々の生活や性質にも影響している。ある研究によると、都道府県による気質の違いが確かに示されている。一般に日本海側は消極的な気質が目立ち、太平洋側は積極的な気質が目立つ。また、東京、大阪、福岡といった大都市圏はとりわけ積極的な気質が高い。
おわりに
いくつかの研究によると、環境要因が県民性に影響していることが報告されている。その原因は、年間の日照量、緯度、歩きやすさ、人口密度などである。例えば、ある研究では、緯度が低いほど、また、気温が高く年間日照量が多いほど、活発で積極的な気質を持つことが示されている。つまり、南国には元気な人が多いということになる。また、日照量が少ない地域ほど消極的傾向が高いことが示されている。しかし、環境が変わって日本海側から太平洋側に移って何十年も住んでいると、かつて無口な人が多弁になることは多くの人が経験している。これは人間の順応性によるものである。日本人はどこに住んでも日本人である。 2025年3月1日
付録
新旅のこぼれ話(4)くつろげる国タイ
タイは私の好きな国の一つです。理由は単純で、暖かくて果物がおいしく、人柄が温和でリラックス出来る国だからです。私が千葉大学薬学部に勤務していた頃、首都のバンコックにある国立チュラロンコン大学薬学部、北部のチェンマイ市にある国立チェンマイ大学薬学部が姉妹校だった関係で1993年以来ほとんど毎年訪れました。 バンコック市内は車の渋滞がひどいので有名です。バンコックの大学に勤めている友人の話しでは、朝自家用車で通勤のとき、渋滞に巻き込まれるとバイクタクシー(バイクの後ろの席に乗る、ヘルメット着用義務あり)に乗り換えて大学の講義時間に間に合わせるといいます。バイクタクシーは安い上に、タクシーよりはるかに早く目的地に着くので人気です。
ワットポー

タイは仏教国だけに寺院が多いのもバンコックの特色の一つです。「ワットポー」などポーの付く場所が多いですが、これは「寺院」の意味です。更に市内を歩くと、至る所に、とくに商店やレストランなどの敷地内に屋根付きの小さな仏壇があり、花や供え物が絶えないのもタイらしい風景です。
水上市場
タイにはさまざまな観光地があり、郊外へ行くとバンコックの様な都会とは異なった情緒を楽しむことが出来ます。水上市場(写真参照)も日本では経験出来ない場所です。川岸から遊覧船に乗ると、川には食品や日用品、観光客のお土産等を積んだ多くの船が船上で商売をしています。また、プーケットなど南の海岸は観光地として世界各国からの観光客で一年中賑わっています。何しろ冬のない国なので、年中温暖な気候で観光にはもってこいです。首都バンコックや観光地は安全で親日的ですので是非南国タイを楽しんで下さい。

チェンマイ市
タイの北部にある昔の首都のチェンマイ市は象の飼育場のあることで有名です。静かな町で大きな寺院が至る所にあり、バンコックの賑やかさとはまた異なった趣きがあります。チェンマイの郊外へ行くと、今でも少数民族の部落が点在し、大都会とはかけ離れた生活をしています。ある時、この部落を訪れたら、そこの庭先に見事なケシの花が多く咲いていました。チェンマイの北のビルマとの国境へ行くと、そこは「トライアングル地域」と呼ばれる麻薬、覚醒剤の密売の本拠地です。日本の観光客はくれぐれもその辺には近付かない様に注意して下さい。その地域に入ったら命の保証はありません。